1987年から2019年にかけての日本鯨類研究所の主な調査活動は、国際捕鯨取締条約(ICRW)第8条に基づく特別許可鯨類捕獲調査計画の立案と実施であった(下表参照)。
調査計画* | 調査期間(外洋(O)又は沿岸(C)) | 非致死的採取対象種(目標年間捕獲頭数**) | IWC SCによる調査計画書の審査(P)と結果(R) |
南極海(沖合、南半球夏季) | |||
JARPA | 1987/88 - 2004/2005/O | クロミンククジラ (n=330) 1987/88 - 1994/95 クロミンククジラ (n=440) 1995/96 - 2004/05 |
P:1987*** R:1997,2006 |
JARPAU | 2005/06 - 2013/14/O | クロミンククジラ(n=935),ナガスクジラ(n=50),ザトウクジラ(n=50) | P:2005;R:2014 |
NEWREP-A | 2015/16 - 2018/19/O | クロミンククジラ(n=333) | P:2015 |
北西太平洋(沖合(O)および沿岸(C)) | |||
JARPN | 1994 - 1999/O | ミンククジラ(n=100) | P:1994****
R:2000 |
JARPNU | 2000 - 2016/O,C | ミンククジラ(n=220),ニタリクジラ(n=50),イワシクジラ(n=100),マッコウクジラ(n=10) | P:2000,2002,2004
R:2009;2016 |
NEWREP-NP | 2017 - 2019/O,C | ミンククジラ(n=170),イワシクジラ(n=134) | P:2017 |
*:JARPA: 南極海鯨類捕獲調査。JARPAU:第二期南極海鯨類捕獲調査。NEWREP-A:新南極海鯨類科学調査計画。JARPN:北西太平洋鯨類捕獲調査。JARPNU:第二期北西太平洋鯨類捕獲調査。NEWREP-NP:新北西太平洋鯨類科学調査計画。
**: 提案された最大捕獲頭数。
***: 1987年以降、JARPAの調査計画は毎年提出された。
****: 1994年以降、JARPNの調査計画は毎年提出された。
日本の特別許可鯨類捕獲調査計画調査目的のほとんどは、IWCの資源管理方式、すなわち1994年までは「新資源管理方式(NMP)」で、その後は「改定管理方式(RMP)」の下で、大型鯨類の資源評価と管理に必要なデータとサンプルを取得することに集中していた。言い換えれば、これらの研究調査プログラムの主な焦点は、RMPの下、IWC内で日本が将来の持続可能な商業捕鯨を行うための準備として関連するデータと情報を取得することであった。その他の目的は、例えば、生態系におけるクジラの役割や健康状態を研究することに焦点を当てるなど、より生態学的な性質のものであった。
各特別許可鯨類捕獲調査計画の根拠と目的をよりよく理解するために、ここではNMPとRMPについて簡単に説明する。>
新資源管理方式NMP
NMPはモラトリアム以前のIWCが鯨類資源を分類し、捕獲制限量を算出するためのシステムであった。1974年にIWCで採択されたNMPは、主に初期資源と現在の資源量の推定値、および最大維持生産量(MSY)の概念に基づいて、鯨類資源を分類し、捕獲制限設定するための規則であった。MSYの背景にある理論は、資源を構成する個体数が減れば資源量が増加する(例えば繁殖や生存に必要な一個体当たりの利用可能資源が増えるため)、というものである。したがって、未開発資源と比較した場合の各資源規模では、自然死亡率よりも加入の方が一定程度過剰量となる。この過剰量は、資源が初期未開発ないしそれに近い水準にあるときや低い水準にある時の両方の場合、低くなる。最大生産量(MSY)まで増加するのは、元の資源量の50〜60%あたりである。この生産量は、理論的に、資源を枯渇させることなく無期限に捕獲できる最大捕獲量を示している。
NMPのもとでは、鯨類資源は、「初期管理資源」、「維持管理資源」、「保護資源」の3つのカテゴリーに分類され、ほとんどの場合、未開発資源のレベルとの比較による個体数レベルに基づいている。MSYの90%を下回ると判断された資源は保護され、それ以外の資源からの捕獲はMSYの90%を超えないようにすることで、少なくとも理論上は、これらの資源がMSYを下回るまで枯渇することがないとされた(Punt, AE and Donovan, GP. 2007. Developing management procedures that are robust to uncertainty: lesson from the International Whaling Commission. Journal of Marine Science 64 (4): 603-612の下図を参照)。
NMPは理論的には管理を改善するものであったが、その実際の実施は、主にMSYと未開発の資源量推定が困難であったため、問題があった。このような困難は、MSYを算出するのに必要な個体数の推定値や、自然死亡率、性成熟年齢、加入量などの生活史パラメターの推定値が十分ではなかったことに関係している。これはIWCが1982年にモラトリアムを可決し(発効はその役3年後)した際の根拠の一部である。
改定管理方式RMP
NMPの実施に伴う問題を認識し、IWCの科学委員会(SC)は1986年頃から、ヒゲクジラ類の商業捕鯨のための持続可能な捕獲制限を推定する方式を開発することに取り組み、生物学的なパラメターだけでなく、現在および初期の資源量推定における不確実性のレベルを考慮した。1994年にIWCで採択されたが、実際に実施されていない。特別許可による鯨類捕獲調査では、RMPは少なくとも二つの主要な要素、捕獲限度量算出アルゴリズム(CLA)と実施シミュレーション実験(ISTs)から構成されるといえる。
CLAは、種や海域に関係なく、ヒゲクジラの単一個体群(系群)に対する安全捕獲枠を算出するために使われる数学的公式であり、したがって「一般的」と言われている。NMP の問題点を考慮し、次の2種類の情報のみを必要するように設計(そしてコンピューターモデリングによってテスト)された。(1)個体群中の鯨の頭数(含む統計的不確実性を伴う)の推定値(資源量推定値)を6年間隔で定期的に採集する、および(2)人間活動(主に直接的な捕獲だが、漁具による偶発的な死亡や船舶衝突による死亡の可能性も含む)による時間経過に伴う除去の推定。過去の除去数の推定は、歴史的記録の不確実性を考慮に入れており、現在の捕獲数は信頼できると仮定されている。したがって、NMPとは異なり、RMPのCLAはクジラの生物学的特性値データの入手可能性に依存していない。
しかし、特に餌場や回遊の一部のでは、異なる生物学的個体群のクジラが混在することがある。これは種、海盆、時間によって異なる。したがって、RMPは複数の生物集団・個体群が存在する状況における不確実性を評価するためにISTアプローチを利用している。ISTsは、各集団の商業的捕獲制限を算出する実際の適用前に、さまざまなもっともらしい多種存在シナリオにおける保全目標を満たすためにCLAの性能を保証するために実施されるコンピューターシミュレーションである。捕鯨活動の範囲内の「スモールエリア」と呼ばれるものに捕獲制限を設定し、捕獲量を範囲全体に広げることで、さらなる安全性が達成さる。したがって、資源構造とそのもっともらしさに関する仮説は、RMPプロセスに不可欠である。性成熟年齢、自然死亡率、MSY率などの生物学的データは、ISTsによる不確実性の評価に寄与する(不確実性を低減することで、保全目標を達成しながら許容捕獲量を増やすことができる可能性がある)。