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2022/2023年度南極海鯨類資源調査(JASS-A: Japanese Abundance and Stock-structure Surveys in the Antarctic)の終了について


令和5年3月13日
指定鯨類科学調査法人
一般財団法人 日本鯨類研究所


1 経緯

本調査は、日本国政府が従来実施してきた南極海における鯨類資源の持続的利用を目的とした資源調査(非致死的調査)を継続するもので、令和元年6月30日の国際捕鯨委員会(IWC)脱退後、南極海における第4回目の調査航海となります。 本年度の調査は、南極海において鯨類目視調査、バイオプシー試料の採集、衛星標識の装着や海洋観測などを行いました。 本調査の結果は、南極海における鯨類資源の適切な管理等に貢献するため、IWC/科学委員会や南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)/生態系モニタリング管理作業部会及び北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)/科学委員会といった国際機関に報告する予定です。

調査船である第二勇新丸は、令和4年12月5日に、第三勇新丸は、令和4年12月7日に宮城県塩釜港を出港し、令和5年1月10日から2月6日までの28日間にわたり、南緯60度以南の南極海において鯨類目視調査や各種実験・観測を実施して、3月13日、第二勇新丸は宮城県塩釜港に、第三勇新丸は山口県下関港に帰港しました。


2 調査計画と結果概要

本調査は、水産庁補助事業により、当研究所が中心となって計画の立案と実施並びに結果の分析を主導しています。

本年度の調査は、IWCの管理海区の一つである第VI区の東側海域(南緯60度以南の西経130度から145度までの海域)を対象海域として、2隻の調査船により実施しました。

調査では、鯨類の資源量推定に必要な過去の調査と一貫性のある目視データを収集し、多数のバイオプシー試料を採集した他、鯨類への衛星標識装着などにより様々な非致死的調査データの収集にも成功しました。 本年度は調査船2隻体制で実施したことにより、調査海域内を効率的に調査することができました。 実験結果は、昨年度(調査船1隻体制)と比べ、自然標識写真の撮影個体数で2.8倍、バイオプシー試料採集数で2.1倍、衛星標識装着数で1.7倍に増加し、より充実した調査となりました。

調査では、シロナガスクジラをはじめ、クロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ等の複数鯨種が確認されました。 最も多く発見されたのはクロミンククジラで、調査海域の最南部にあたる南極大陸近くの水域に高密度で分布していました。 なお、その水域では、クロミンククジラ以外のヒゲクジラ類の発見はありませんでした。

クロミンククジラは、摂餌海域である南極海の中でも氷縁際まで南下して、高密度海域を形成することが知られています。 しかしながら、近年の地球温暖化の影響によって定着氷が解け出すようになり、本種が調査船の進入できない氷縁のさらに奥にまで入り込むようになったため、分布の全様を把握することが難しい状況にありました。 本年度の調査では、当初の想定以上に定着氷が解けたため、従来、氷に阻まれて調査をすることが難しかった南極大陸近くの水域を調査することに成功しました。 そこでは、クロミンククジラが高密度に分布しており、本種が現在も健全な資源状態であることが確認されました。 本種の資源研究には、氷縁の奥に形成される水域の情報が極めて重要であることから、本研究所では、そのような水域について上空から鯨類資源調査を行うべくVTOL-UAV(垂直離着陸型・自律型無人航空機)の開発を進め運用を開始しています。

ナガスクジラ、ザトウクジラは1990年以降、資源の回復により、南極海に数多く分布していることが明らかとなっています。 今年の調査においてもこの状況を確認することができ、南極海に来遊する多くの鯨種が健全な資源状態を維持していることが示唆されました。

南緯60度以南の第VI区東側海域(西経120度から145度)については、昨年度の調査(西経120度から130度)と本年度の調査(西経130度から145度)により、カバーすることができました。


2.1 主要調査目的:

(1) 南極海における大型鯨類の資源量およびそのトレンドの研究

(2) 南極海における大型鯨類の分布、回遊ならびに系群構造の研究


2.2. 航海期間と調査期間:

航海日数:

航海日数:99日間(第二勇新丸)、97日間(第三勇新丸)

第二勇新丸:令和4年12月5日(塩釜港出港)〜令和5年3月13日

第三勇新丸:令和4年12月7日(塩釜港出港)〜令和5年3月13日

(第二勇新丸:塩釜港入港、第三勇新丸:下関港入港)

調査日数 (調査海域):28日間

令和5年1月10日(開始)〜令和5年2月6日(終了)


2.3. 調査海域

本年度の調査海域は、南極海にあるIWCの管理海区の一つである第XT区の東側海域で、南緯60度以南の西経130度から145度までの海域(図1)でした。 また、日本から調査海域への往復航海の海域において中低緯度目視調査を実施しました。


2023調査海域図

図1. JASS-A調査海域、青枠:全調査海域、桃色:本年度の調査海域


2.4. 調査員 :

第二勇新丸

磯田辰也(調査団長:(一財)日本鯨類研究所 資源量推定チーム長)以下4名

第三勇新丸

勝俣太貴(首席調査員:(一財)日本鯨類研究所 研究員)以下4名


2.5. 調査船 :

第二勇新丸(747トン、共同船舶(株)所属、葛西英則船長 以下16名)

第三勇新丸(742トン、共同船舶(株)所属、阿部敦男船長 以下16名)

磯田調査団長、葛西船長、阿部船長 以下40名が乗船し、調査航海に従事しました。


2.6. 実施機関 :

指定鯨類科学調査法人・一般財団法人 日本鯨類研究所


2.7. 総探索距離(中低緯度目視調査を含む) :

6,027.0 海里 (約 11,162.0km)


2.8. 主要な発見鯨種(中低緯度目視調査を含む):

シロナガスクジラ 21群 32頭、ナガスクジラ 96群 212頭、クロミンククジラ 317群 634頭、ザトウクジラ 27群 56頭、イワシクジラ 10群 13頭、ニタリクジラ 4群 4頭、コセミクジラ 2群 2頭、マッコウクジラ 21群 30頭、ミナミトックリクジラ 1群 2頭、シャチ 12群 130頭


2.9. 各種実験・観測結果:

(1) 距離角度推定実験
目視観察者ごとの鯨類の発見角度と距離の推定精度を求めるために距離角度推定実験を実施しました。

(2) 自然識別写真撮影(個体数)
シロナガスクジラ 26頭、ザトウクジラ 11頭、シャチ 37頭

(3) バイオプシー試料採集(個体数)
シロナガスクジラ 8頭、ナガスクジラ 20頭、イワシクジラ 6頭、クロミンククジラ 28頭、ザトウクジラ 16頭、コセミクジラ 2頭、シャチ 9頭

(4) 衛星標識装着
鯨類の移動並びに潜水行動の記録を目的として、ナガスクジラ8頭、クロミンククジラ25頭、ザトウクジラ2頭、イワシクジラ 2頭、コセミクジラ1頭に対して衛星標識を装着しました。 衛星標識により記録された短期的な潜水行動は、ナガスクジラとザトウクジラが水深10mから20m付近を中心としていたのに対し、クロミンククジラは水深5mよりも深く潜水することは稀でした(図2)。


2023潜水

図2. 衛星標識により観察したナガスクジラ、ザトウクジラ、クロミンククジラの潜水行動。


(5) XCTD(投下式塩分水温深度計)による海洋観測
調査海域における海洋構造と鯨類分布の比較を目的として、観測点 137ヵ所で水深 0m〜1,850mまでの水温と塩分濃度を測定しました。

(6) ドローンを活用した撮影実験
本年度は、当研究所がかねてから開発を進めてきたVTOL-UAV(垂直離着陸型・自律型無人航空機)「飛鳥」を投入し、南極海での自律飛行により資源調査・研究を検討するための基礎情報を収集しました。 また、小型のドローンでは、鯨類の体長計測、肥満度測定および遊泳行動の観察を目的とした撮影実験を行い、シロナガスクジラやクロミンククジラを撮影しました。

(7) 海洋漂流物(マリンデブリ)観察
本年度は、南極海の調査海域において、海洋漂流物 9個(ゴムおよびプラスチック製ブイ8個、プラスチック容器1個)を確認しました。


写真:2022/2023年度南極海鯨類資源調査(JASS-A)の様子

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シロナガスクジラの親子 南極大陸近くの水域で確認された
クロミンククジラの大群
シロナガスクジラ
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ザトウクジラの尾鰭 船上から離陸するVTOL-UAV「飛鳥」 氷提付近を飛行するVTOL-UAV「飛鳥」
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VTOL-UAV「飛鳥」により撮影した海氷の様子 海氷の中を航行する調査船 第二勇新丸 海氷の中での探索の様子
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海氷の中を航行する調査船 第二勇新丸 クロミンククジラへの衛星標識装着実験の様子 中低緯度調査で発見したコセミクジラ

調査の動画は、当研究所Youtubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCz3c9IIMiQPVeryAogmJIig)でご覧になれます。


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