2015年2月1日から3月4日までの32日間にIWCの管理海区である第IV区(東経70度から同130度まで、南緯60度以南の海域)において、目視専門船2隻(勇新丸及び第二勇新丸)を用いて、目視調査およびバイオプシー試料の採集などの非致死的調査を行いました。 今回の調査では、クロミンククジラなどの鯨類の資源量推定に必要な目視データを収集することを主目的としており、併せてシロナガスクジラなどを対象とした自然標識の記録(写真撮影)やバイオプシー試料の採集などの非致死的調査についても実施し、鯨類の資源管理に有用な情報を収集しました。 今回の調査計画は、2014年5月に開催された国際捕鯨委員会(IWC)/科学委員会(SC)に提出して、全会一致で承認されています。
調査海域では、あらかじめ設定された調査コース上において探索を行い、その総探索距離は、3,869.9マイル(約7,167km)となりました。 その結果、希少種であるシロナガスクジラ6群7頭やミナミセミクジラ27群43頭をはじめ、ナガスクジラ104群236頭、イワシクジラ5群8頭、クロミンククジラ128群165頭、及びザトウクジラ837群1,743頭等、多数の大型鯨類を発見し、南極海における大型鯨類の回復傾向が一層明らかになり、同一海域を複数鯨種が利用しあっていることが明らかになるとともに、各鯨種の資源量推定に必要な目視データを得ました。 また、距離角度推定実験をはじめ見逃し率推定のための独立観察者実験や、自然標識記録(5鯨種119個体)、バイオプシー採集(5鯨種62個体)、海洋漂流物観察調査(11件)等の各種実験・観測データも収集されました。 シー・シェパードによる妨害の影響によって、2007/08年度以来第IV区で目視調査は実施できませんでしたが、6年ぶりに第IV区で目視調査を実施できたことは、貴重な科学的成果が得られました。
2-1.調査海域
今次調査では、南緯60度以南、東経70度〜東経130度(経度60度分)を調査海域としました。 しかしながら、悪天候が予想以上に続いたため、実際には、南緯60度以南、東経70度〜東経115度(経度45度分)を調査するに留まり、東経115-130度(経度15度分)は今後の課題となりました(図1)。
2-2.航海日数及び調査日数
航海日数:平成27年1月8日(出港)〜平成27年3月28日(入港) 80日間
調査日数:平成27年 2月1日(調査海域)〜平成27年3月4日(終了) 32日間
2-3.調査員
調査団長 松岡耕二 ((一財)日本鯨類研究所 調査研究部観測調査研究室長) 以下4名
2-4.調査船と乗組員数(入港時:監督官、調査員を含む)
目視専門船 勇新丸(724トン)大越 親正 船長 以下 20名
目視専門船 第二勇新丸(747トン) 阿部 敦男 船長 以下 22名
注)この他、日新丸(8,145トン、小川 知之船長以下53名)が、調査船への補給船として従事しました。
2-5.目視調査活動
1) 目視調査(資源量推定等を目的としたもの、距離角度推定実験ならびに中低緯度海域目視調査を含む)
2) 鯨体の自然標識の写真撮影(回遊経路等の把握を目的としたもの)
3) バイオプシー試料の採集(DNA情報等の収集を目的としたもの)
4) その他(海洋漂流物観察調査)
3-1.目視調査
目視専門船2隻により、プリッツ湾を含む第IV区を中心に、総探索距離、3,869.9マイル(約7,167km)を調査しました。 調査コースのカバー率は、北部海域73%、南部海域82%、プリッツ湾89%でした。 今期は、プリッツ湾の海氷が融けず、例年の半分程度の面積を調査するにとどまりました。 また、衛星画像等で調査海域内にも巨大なポリニアの形成が確認されていましたが、入口の海氷が融けず、調査を断念しました。
調査海域の鯨種別発見群頭数をみると、ザトウクジラ(837群1,743頭)が圧倒的に多く、ナガスクジラ(104群236頭)がこれに続き、クロミンククジラ(128群165頭)の発見頭数は3番目となり、今回の調査海域での鯨類の優占種の交代の可能性が示唆されました。 また、希少種とされているシロナガスクジラ(6群7頭)やミナミセミクジラ(27群43頭)も多数発見があり、同種の1-2月の分布特性に関する貴重な記録となりました。 クロミンククジラの発見が少なかったことについては、上述したように、本年は海氷の融け方が遅く、クロミンククジラが多く分布するパックアイス(海氷の張出し部)の内部を充分調査することができなかったことが影響している可能性があります。
3-2.各種実験結果
目視専門船においては、乗組員観察者ごとの鯨類の発見角度と距離の推定精度を求めるための距離角度推定予行演習ならびに本実験を実施しました。 また、鯨類の見逃し率算出を目的とした独立観察者実験(IO)を、調査コースの50%を対象として実施しました。 また、シロナガスクジラ8個体、ミナミセミクジラ39個体、ザトウクジラ45個体、及びシャチ19個体分の自然標識撮影を実施し、また、シロナガスクジラ3個体、ナガスクジラ9個体、ミナミセミクジラ39個体、ザトウクジラ10個体、及びシャチ1個体から皮膚標本を採取しました。 海洋漂流物観察調査では11件のプラスチック製ブイの発見・記録を実施しました。
※ 中低緯度目視調査で発見した1頭を含む。
3-3.中低緯度海域における目視調査結果
日本から調査海域までの往復航海を利用し、中低緯度海域(公海)において目視調査を実施しました。 シロナガスクジラをはじめとする大型ヒゲクジラ類を発見し、シロナガスクジラ1頭に対して自然標識撮影とバイオプシー標本採取を行いました。
目視専門船2隻により、調査妨害を受けずに調査活動に専念して、広域で均一な時期・海域の目視情報ならびに大型ヒゲクジラ類の皮膚標本を収集することができたのは、2008/09年度以来6年ぶりであり、貴重な情報が収集されました。
今次の南極海第IV区では、従来の知見と同様、シロナガスクジラをはじめ、クロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、ミナミセミクジラの複数鯨種が同一海域を利用していることが明らかとなりました。 さらに、クロミンククジラの多くが南部海域に偏って分布し、また、パックアイス内に移動していることが示唆された一方、今回の調査海域のほぼ全域でナガスクジラ及びザトウクジラがクロミンククジラの発見数を大きく上回り、大型鯨の回復傾向が一層明らかになるなどの成果が得られました。
また、今回新たに導入した鯨類の見逃し率算出を目的とした独立観察者実験(IO)も問題なく実施された。
今回、予想以上の悪天候により発生した未調査海域(東経115度から同130度までの経度15度分)については、今後の課題として残されました。
これらの目視データや画像、DNA標本等は、様々な分野の研究担当者に引き渡されて分析及び解析が行われ、その成果はIWCや各分野の学会などで公表され、多分野の研究の進展に寄与することが期待されます。
(写真1)シロナガスクジラの頭部(左)とシロナガスクジラ親子からのバイオプシー実験風景(中、右)
(写真2)ナガスクジラの群れ(左)、ラーセン銃を使用したバイオプシー実験風景(中)と採集した組織(右)
(写真3)ザトウクジラの噴気(左、1群30頭以上)と群れ(中)、ザトウクジラのブリーチング(右)
(写真4)希少種であるミナミセミクジラの自然標識写真(頭部形状が個体識別に使用される)