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鯨類捕獲調査の副産物(鯨肉製品)に含まれる水銀濃度について

2018年2月2日

鯨類捕獲調査の副産物(鯨肉製品)に含まれる水銀濃度につい(PDFファイル)


(一財)日本鯨類研究所


はじめに


水銀は、金属の一部で、自然界では地下のマグマに多く含まれており、火山活動により環境に放出され、土、空気、水すべてに微量に含まれています。 最近では、人間の産業活動にともなって、人為的に大気中に放出される水銀が増えていて、社会問題にもなっています。 水銀の種類は、金属水銀、無機水銀及び有機水銀に大きく分けることが出来、その中で健康への影響が懸念されるメチル水銀は、自然界のある種の細菌によって無機水銀から作られる有機水銀です。

環境中の水銀の一部はメチル水銀に変化し、海洋生態系の中で食物連鎖によって生物濃縮されていきます。

日本では水銀について、大気や水質、土壌、廃棄物、食品等について、基準値が定められています。 魚介類については、昭和48年(1973年)に水銀に関する暫定的な規制値が設定されました*。 また、当時、その消費が少ないことから規制の対象とされていなかったマグロ類や深海魚、鯨類については、平成17年(2005年)に、妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項として公表され、平成22年(2010)年に改訂されています(厚生労働省、2005, 2010)。


*:魚介類では、水銀の暫定的規制値は、総水銀が0.4ppmで、これを超えた場合はさらにメチル水銀を分析し、メチル水銀が0.3ppmを超えると規制の対象となっています。


(一財)日本鯨類研究所が行っている鯨類捕獲調査では、1987年の開始時から、環境化学的な研究として、鯨体内における水銀の蓄積特性や、成長及び繁殖などの生物過程における鯨体内での変化などを研究しており、採集した個体の水銀分析を行ってきました。

2000年頃、国内で水銀のヒトへの健康影響への関心が高まったことから、研究所では調査副産物の水銀の一斉調査を行いました。 そして水銀濃度が魚介類に設定されている暫定的規制値を超える可能性がある鯨の種類については、2000年以後、全頭検査を実施し、一方、規制値よりも十分に低い鯨種については、2000年以後、抜き取り検査により水銀濃度をモニターしています。


1.赤肉(筋肉)に含まれる水銀濃度


鯨肉のうち赤肉は、最も流通量が多く、スーパーなどで刺身用や竜田揚げ用として売られている部位です。赤肉に含まれる水銀濃度を表1に示しました。 この表では、鯨種毎に示しており、南極海のクロミンククジラ、北西太平洋のミンククジラ及びイワシクジラについて示しています。

南極海のクロミンククジラや北西太平洋のイワシクジラはかなり低い総水銀濃度を示しており、魚介類の暫定的規制値よりも十分に低いことから(規制値のおよそ10分の1)、同種については、抜き取り検査によって、水銀濃度レベルをモニターして確認しています。 一方、北西太平洋のミンククジラについては、極くまれに総水銀の暫定的規制値を超える個体があることから、2000年以降、全頭について水銀濃度の検査を行っています。 水銀濃度が暫定的規制値を超えた場合には、その個体の鯨肉は、市場に流通させない措置をとっています。 2000年以降、規制値を超えた個体は、全体の0.3%(全2,393頭のうち6頭)で、99.7%の個体が規制値以下の値でした。 引き続き、全頭検査を続け、今後も規制値を超える個体の鯨肉は市場には流通しないようにいたします。


表1 調査副産物の赤肉(筋肉)中の水銀濃度

鯨種 調査海域 調査年 赤肉中水銀濃度(ppm 湿重量当り)
平均値 最小値 最大値 検体数
クロミンククジラ 南極海 総水銀 1987-2017 0.027 0.003 0.070 227
イワシクジラ 北西太平洋 総水銀 2002-2016 0.044 <0.001 0.10 380
ミンククジラ 北西太平洋 総水銀 1994-1999 0.21 0.004 0.83 498
2000-2017 0.16 <0.001 0.57* 2,387
メチル総水銀 2000 0.11 0.017 0.19 40

2.“本皮”に含まれる水銀濃度


本皮は、ベーコンや鯨汁に加工される脂の多い部位です。 “本皮”に含まれる水銀濃度を表2に示しました。 本皮中の水銀濃度は、分析した3鯨種全ての製品において、分析可能な濃度(0.01ppm)と同じかそれ以下の濃度でした。

このように本皮は水銀がほとんど含まれない製品ではありますが、2003年以降抜き取り検査を実施ししています。 引き続き抜き取り検査を行い、水銀濃度のモニタリングを行います。


表2 調査副産物の本皮(脂皮)中の水銀濃度

鯨種 調査海域 調査年 赤肉中水銀濃度(ppm 湿重量当り)
平均値 最小値 最大値 検体数
クロミンククジラ 南極海 総水銀 2003-2017 <0.01 <0.01 0.01 65
イワシクジラ 北西太平洋 総水銀 2003-2014 0.01 <0.01 0.04 65
ミンククジラ 北西太平洋 総水銀 2003-2012 0.02 <0.01 0.04 46

おわりに


日本の鯨類捕獲調査で生産される調査副産物の“赤肉”や“本皮”については、自主検査を実施して、国内の魚介類の暫定的水銀規制値に基づいた対応をとっています。

赤肉は、良質なたんぱく質や鉄などを多く含み、また、本皮では飽和脂肪酸が少なく生活習慣病の予防や脳の発育等に効果があるといわれているEPA、DHAやDPAなどの不飽和脂肪酸を多く含んでおり、健康的な食生活を送るうえで、不可欠な栄養素を数多く含んでいる食材の一つです。 厚生労働省の「妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項」においても、鯨類を含む魚介類は健康的な食生活にとって不可欠で優れた栄養特性を有しており、バランスのよい食事に欠かせないものとされています。 鯨肉を含む魚介類をバランスよく利用することで、海からの恵みを十分に活用し、健康で豊かな食生活を送りましょう。


参考資料


厚生省.1973.魚介類の水銀の暫定的規制値について.昭和48年7月23日、環乳第99号.

厚生労働省.2005.妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項.平成17年11月2日(平成22年6月1日改訂).

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