ホーム メール 印刷用
写真
写真
translate

2004/05年南極海鯨類捕獲調査(JARPA)の結果について

平成17年3月31日
財団法人 日本鯨類研究所

南極海における鯨類捕獲調査(JARPA)は、国際捕鯨取締条約第8条に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施している調査で、本年の調査は、1987/88年に実施した調査理論の実行可能性調査から数えて18度目の調査で、本計画の最終年の調査となりました。

JARPAは1989/90年より本格調査として実施され、国際捕鯨委員会(IWC)の管理海区である南極海第IV区(東経70度〜東経130度)及び第V区(東経130度〜西経170度)を対象に、隔年で各々の調査海区を交互に繰り返し、長期間の継続調査を行うように計画されています。 また、1995/96年からは、調査海域に第III区東側と第VI区西側の海域を加えて調査を実施してきました。

どの海区においてもライントランセクト法の理論に基づく目視調査と、無作為抽出法による南極海ミンククジラ(クロミンククジラ)の標本採集とを併用した調査活動を行ってきました。

今期調査は、南極海ミンククジラの来遊盛期の実態を把握する目的から、南極海第V区を対象とした第8回目の本格調査と、南極海ミンククジラの回遊及び系群構造の季節変動を把握する目的から、第VI区西側海域における5回目の調査を実施しました。

またこの往復航海中には、南極海ミンククジラの回遊と繁殖海域における分布及び系統群判別に必要な情報を得ることを目的にして、南半球中低緯度鯨類目視調査を実施しました。

photo
ローマ数字はIWCの管理海区。オレンジ色海域はJARPA調査海域を示す

採集された南極海ミンククジラの標本は、調査海域における年齢や性別の組成や棲み分け及び自然死亡率等を調べるために用いられるほか、形態・成長・繁殖・生理・回遊に加え、生態系及び海洋環境といった多岐にわたる研究項目について解析するために有効に活用されております。

これまでの調査結果により、南極海に索餌回遊するミンククジラの生物学的特性や分布並びに回遊生態は、当初予想したほど単純ではなく、生態系やそれを包含する海洋環境が複雑に関係していることがわかってきました。 この捕獲調査が始まるまでは、IWCが定めた6つの管理海区に個別の繁殖集団(系統群)が存在すると考えられていましたが、捕獲調査の標本を用いたDNAなどの遺伝学的情報の解析結果により、調査海域の第IV区及び第V区には異なる系統群が存在し、これらの系統群が隣接する第III区や第VI区にも及んでいることが示唆されました。 このため、各々の系統群の境界や資源構造を把握するために、1995/96年より調査海域が拡げられました。 また、鯨類の生息環境を知るために、餌生物の分布状況や索餌場における海洋環境を把握することも重要であり、餌生物の分布及び資源推定のための計量魚探調査や海洋環境の観測も併せて実施してきました。

photo photo
左:氷上のアデリーペンギン(中央)とコウテイペンギン、右:調査母船で鯨体を計測する生物調査員

本年の調査においても、ミンククジラが最も発見が多く、発見総数は1,711群4,400頭でした。 ミンククジラが優占種であることは、18年間のJARPAを通して一貫した結果です。 しかしながら、発見される鯨種組成には、年変化が認められ、JARPAの初期の調査では、ミンククジラに次いで、ハクジラ類のマッコウクジラやシャチの発見が多かったのに対して、最近の調査では、ザトウクジラやナガスクジラなどのヒゲクジラ類が比較的多く発見されるようになり、現在ではミンククジラが発見の数では勝っているものの、生物量(バイオマス)で比較するとザトウクジラやナガスクジラがミンククジラに匹敵するような発見が得られるようになりました。

photo photo
左:調査船に寄って来たザトウクジラ、右:南極海ミンククジラのブリーチング

また、シロナガスクジラの発見も、調査がすすむにつれて次第に発見数が増える傾向が認められており、本年の調査においても調査海域の南側海域で広範囲に発見される傾向が認められました。

南極海ミンククジラを対象とし、南極海VI区西側海域で110頭(オス67頭、メス43頭)、V区で330頭(オス110頭、メス220頭)、調査海域全体で440頭のランダムサンプリングを行いました。 今年の調査は、最近の傾向とは異なり、ロス海に開氷域が広く形成されたことから、採集した個体も同海域(V区南部東海域)の特徴を反映して、メスが比較的大きな割合を示しています。

第V区東側海域では、水産庁の漁業調査船開洋丸と連携して南極海生態系総合調査を共同で実施しました。 調査対象としたロス海は、近年ではまれにみる広範な開氷域が形成され、開洋丸と連携してロス海を広く調査できたことにより、オキアミを鍵種とする南極海生態系の構造の解明並びに南極海の環境変動による鯨類及びオキアミ資源への影響の把握に必要な貴重な資料を収集できたと確信しています。

photo水産庁漁業調査船 開洋丸

調査の概要

(1)調査目的

(1) 南極海ミンククジラの資源管理に有用な生物学的特性値の推定

(2) 南極生態系における鯨類の役割の解明

(3) 環境変化が鯨類に与える影響の解明

(4) 資源管理を改善するための南極海ミンククジラの系群構造解明

(2)調査海域(図1)

南緯60度以南の南極海第V区(東経130度〜西経170度)及び第VI区西側(西経170度〜西経145度)。 第VI区西側については、第V区調査の前に調査を行った。 また、調査海域への往復航海を利用して南緯30度から南緯60度の間で南半球中低緯度目視調査を実施した。

area
図1.2004/05JARPAにおける調査海域概要。捕獲調査は南緯60度以南、東経130度から西経145度の間を調査した。 また、調査海域への往復航海を利用して南緯30度から南緯60度の間に中低緯度目視調査を行った。


(3)航海日数及び調査日数

航海日数: 平成16年11月12日(出港) 〜 平成17年3月31日(入港) 140日間
調査日数: 平成16年12月7日(開始) 〜 平成17年3月8日(終了) 92日間

(4)調 査 員

調査団長 西脇茂利 ((財)日本鯨類研究所 調査部長) 他13名

(5)調査船と乗組員数(含む監督官、調査員)

調査母船 日 新 丸  (7,659トン 遠山大介船長以下122名)
目視採集船 第二勇新丸 (747トン 松坂潔船長以下18名)
目視採集船    勇 新 丸 (720トン 三浦敏行船長以下19名)
目視採集船   第一京丸  (812.08トン 亀井秀春船長以下22名)
目視専門船 第二共新丸 (372トン 南淨邦船長以下21名)    合計 202名

(6)総探索距離(仮集計)

18,712.0浬

(7)鯨種の発見数(一次及び二次発見の合計)
南極海ミンククジラ 1,711群 4,400頭
シロナガスクジラ 14群 18頭
ナガスクジラ 53群 126頭
イワシクジラ 1群 1頭
ザトウクジラ 224群 381頭
ミナミセミクジラ 3群 3頭
マッコウクジラ 115群 118頭
シャチ 80群 1,510頭
ミナミトックリクジラ 47群 83頭

(8)採集標本数(南極海ミンククジラ)

第VI区西側 110頭 (オス: 67頭,メス: 43頭)
第V区 330頭 (オス: 110頭,メス: 220頭)

(9)自然標識撮影(個体識別用写真撮影)

シロナガスクジラ:3群5頭、ザトウクジラ:29群49頭、ミナミセミクジラ3群3頭

(10)バイオプシー標本採取数

ナガスクジラ(2)、ザトウクジラ(38)、シャチ(2)、ミナミセミクジラ(1) クロミンククジラ(1:漂流死体より採取)


2004/05JARPA調査船団

photo photo photo
左から順番に:目視専門船 第二共新丸、目視採集船 第二勇新丸、目視採集船 勇新丸

photo photo
左から順番に:目視採集船 第一京丸、調査母船 日新丸

なお、4月23日(土)及び24日(日)には、入港地である横浜港にて調査母船・日新丸と目視採集船の 第二勇新丸の一般公開を開催する予定です。

2004/05年南極海鯨類捕獲調査(JARPA)の結果について PDF形式

Valid XHTML 1.0 Transitional